本書は柳原和子さんが大学卒業以来、発表してきた原稿をまとめたノンフィクション・エッセイ集です。なんといっても30年分。400頁超のずっしり分厚い単行本になりましたが、収録できたのはほんの一部です。収録候補原稿の山を前にして、ひとつひとつの原稿に込められた思いに彼女のパワーの源を見ることができました。これは編集者冥利に尽きる体験でした。

　ノンフィクション作家・柳原和子の原点を読者のみなさんにも楽しんでもらえればと思い、医療以外の題材を中心に編纂した1冊です。ライターとしてデビューした80年代、海外をくまなく歩いた90年代、日本を見つめた2000年代、と執筆の軌跡を時系列でまとめました。こまやかに綴られる文章から浮かび上がる人びとの暮らしや街の風景、時代の変遷をご堪能ください。

　そして、自らの問題意識に忠実に考え、疑問を投げかけ続ける柳原さんを感じ取ってもらえればと思います。

　装丁と本文デザインは菊地信義氏の手によるもの。本文の版面には著者の呼吸が反映され、圧倒的な文字の迫力で向かってきます。各章冒頭の【あの頃】と題した解題は書き下ろし作品で戦後の時代を綴ってもらいました。終戦直後の日本と著者の自分史が絡み合い、情感たっぷりに各時代の空気が描かれています。